アホな男の子が作り上げる物語。和菓子屋修行ライフ4コマ漫画『わさんぼん』

今回は『まんがタイム』で連載中であり、コミックスが1巻が発売中の4コマ漫画『わさんぼん』を語ります。「アホな男の子は可愛い!!」的和菓子屋修行4コマです。現在メジャーシーンにある「可愛い女の子が中心のデフォルメ系4コマ」以外にも面白い4コマはあるのよ!というお話。

和菓子の専門学校の卒業を控える草餅草太。甘い物は苦手だが、幼い頃に和菓子屋の息子から貰った桜屋の葬式饅頭の味が忘れられず和菓子職人を志す。あるきっかけからその桜屋で修行することになり、草太の修行生活がはじまる…。再会をした和菓子屋の息子が本当は可愛い京娘で…。

この漫画は最近の4コマには珍しく男性が中心に進んでいきます。和菓子屋での修行がメインになっているため、『ほんまもん』のようにNHKの朝ドラに使われてもおかしくない題材です。他の漫画でいうと『味いちもんめ』に作中の雰囲気は近いかもしれません。百聞は一見にしかず、というご紹介。


男の子は可愛い生き物
この漫画の特徴の一つに「緻密に描かれる和菓子」「リアルな和菓子屋描写」があります。作者のおまけ漫画のなかでも念入りに和菓子屋や職人さんを取材していることが確認できます。佐藤両々のデフォルメされつつもリアルな絵柄に呼応する形で和菓子や背景が緻密に描かれています。それは作品にリアリティを与え、よりドラマに浸らせてくれます。
この作品の妙はそのリアルさがありつつも、主人公である草餅草太の気持ちいいまでのアホっぷりであり、それが可愛いのです。この作品はヒロインである牡丹の兄である萩くんといい男の子が可愛い!!のです。それはショタ的な意味での可愛いではなく、「あー、男って可愛い生き物だなぁ」という感じの可愛さです。
この作品の魅力は70%主人公である草太のアホっぷりであると言っても過言ではありません。脳と口が直結していると評されるほどのアホっぷりを発揮してくれますが、言いたいことをはっきり言ってくれる性格がこの作品の気持ちよさに繋がっているのだと思います。アホの子は世界を救うといっても過言ではないでしょう(※救いません)

粘土でアンコをこねるのを想定して練習してたら恐竜を作ったり。あるあ…ねーよwwww

作中内では数回に渡り前振りなくヒロインに求婚したり、求婚したり、求婚したり。ダメだこいつなんとかしないと…。

とにかく思ったことはなんでも口にしたりします。繰り返しますがアホです。漫画は主人公のキャラが立っていないと面白くありません。なんか、こうもすがすがしいアホな主人公はかつての4コマ漫画にあまりいなかったのではないでしょうか。その一方で、素直に努力ができる性格なので成長していく様子が読んでいて気持ちいいです。私は常々人物が成長しない漫画は薄いと思っているだけにその要素は重要であり、作品及びキャラの魅力に繋がっていると思います。

それから草太の兄貴分であり、和菓子屋の長男である萩くんもいいキャラをしています。草太に対して激しいツッコミを入れる厳しいガチムチ系キャラであり、親方と同様に和菓子職人としての厳しさを教えてくれます。この作品では萩くんをはじめ厳しくも暖かい先輩職人が作品を引き締めてくれています。

んで。これまた、萩くんが優しくて可愛いのです!

一人菓子作りの練習をする草太を影で見守る萩くん。草太が頑張るのに影響される萩くん。可愛い!! こう、ガチムチ系キャラを可愛く愛おしい人間に描けるというのは凄いと思います。どうしても「萌え系4コマ」(に、限らずとも。)というのは外見的な可愛さが発信になります。そもそも、どうしても男性キャラはテンプレート気味で個性に欠けている漫画が多いです。その中で「男性を描くのが上手い」という4コマは貴重ではないでしょうか。


可愛いだけじゃダメかしら?
佐藤両々先生の4コマ漫画は非常にアクが強いことでお馴染みです。同作者の『そこぬけRPG』や『崖っぷち天使マジカルハンナちゃん』等はアクが強すぎて苦手な域に達するレベルです。ですが、この『わさんぼん』に関してはそのアクの強さが可愛らしさに繋がっています。一筋縄ではいかない可愛さですが。

和菓子屋の一人娘でありメインヒロインの牡丹ちゃん。京都が舞台であることや和菓子屋の娘であることからにも呼応しイメージ通りの京女。最近では珍しくすらある純粋な黒髪ロングヒロインです。一部の層大勝利でございます。
幼い頃に草太に葬式饅頭を取られた経験があり、10年経過してもそれを根に持っている…部分もありますが基本デフォで優しく暖かい素敵なヒロインです。このコマだけ紹介すると悪意の固まりみたいにも感じられますけど、気のせいダヨ!!(実際のところ牡丹ちゃんマジ天使です。

やっぱり嫌な顔はしないわけで。

誰にでも笑顔で優しく嫌な顔一つしない牡丹ちゃんを評して"京女読めねー"と複雑な草太。牡丹ちゃんは可愛らしいですが読めないミステリアスな部分を時々醸し出します。普段が可愛らしいだけに、こういう二面性に近いギャップが可愛いと思うのです。草太じゃないけど「可愛いです!!」と叫びたくなりますね。

萩くんの許嫁である(親が勝手に決めた約束)咲良ちゃんもアクが強いですが可愛いです。萩くんを許嫁として見ていて懐いている点が小動物的で可愛い。ですが、この咲良ちゃんはビジュアル的にも性格的にもストレートに可愛いキャラではありません。草太とは違った意味でアホの子です。和菓子型のヘアピンを食べようとしたり、年上の淑女をおばさんと呼んで地雷を踏むとか。ダメだ彼女もなんとかしないと…。

こう、ウザ可愛いキャラなわけですけど、太いまゆげを気にするなど女の子らしくて可愛い部分もあります。「まゆげをいじらない辺りナチュラルな可愛さがある」と京都の女の子に神秘的な妄想を抱いてみます。ウザ可愛いって素敵。

他にも和菓子型ストラップを作ってくれた草太にお礼として牡丹ちゃんを狙う男(※実の兄です)から牡丹を助けたり(クラス中の女の子からストラップ作成の注文をとってきたり(※無償で))なんといいうか、女の子らしい部分や律儀な部分が普段ウザ気味なだけに可愛いと思うわけです。一癖も二癖もある女性陣は素敵です。…多分。


佐藤両々ギャグテイスト
この漫画の面白さの一つに佐藤両々の言葉センスがあります。漫画の中で選択される「言葉」は漫画の面白さを左右し、作品のテンポが「良いか悪いか」を決める重要な材料です。4コマ漫画では絵の勢いで誤魔化せないぶん「言葉」は絵と並んで(下手すれば絵異常に)重要な要素です。必然に偶然に突然にちょくちょくはさまれる「佐藤両々ギャグ」がたまらなく面白いのです。

東大モトクロス!!(※「灯台下暗し」な出来事が起きた時)

エスポワール!!(※牡丹ちゃんの許嫁の約束は酔っぱらいの口約束だと判明して)

もはや説明不可能です。なんでしょうかこの言葉のセンスは。このリアクションを表現する言葉のセンスはマネできるものではありません。特に「東大モトクロス」に関してはオチでもなんでもないのが凄いです。勿論、こんな破天荒ギャグだけでなく佐藤両々先生の漫画はとにかくテンポが良く安心感があります。
このようなドラマ性がある4コマ漫画というのは、どうしても恋愛方面や仕事の辛さにウェイトを置かれてしまうことが多く単純なコメディとして楽しめない部分が多々見られます。勿論、恋愛的及びお仕事要素が充実した4コマも面白いですが、その要素が楽しむのに不都合な場合もあります。そう考えると、すべてを笑いに変えコメディとして単純に楽しむことができるこの漫画は非常に素敵な存在だと感じるのです。
この作品にある裏切らないストーリー性、良質なキャラクター性、そして4コマ漫画としての面白さがある漫画として個人的に凄いお薦めです。4コマ誌はこういう良質な4コマ漫画をあっさり終わらしてしまう傾向があるので是非長期連載で堪能したいものです。草太の和菓子職人としての物語、草太と牡丹の物語、萩くんと咲良の物語…。いつまでも続いて欲しい物語、この作品にはそんな魅力があります。それではみなさん叫びましょう!「東大モトクロス!!」


余談としてはこの佐藤両々先生のエッセイコミックスもすげー面白いのですが、それはまたの機会に譲りたいと思います。