喪男ホームコメディ4コマ決定版『小池定路 / 父とヒゲゴリラと私』

色々あるのですが、色々。書くようなことではないんで書きませんが。

男やもめのお父さんと、その娘のみちる。そこにお父さんの弟を加えた三人の生活の始まり。叔父さんはヒゲでマッチョだから「ヒゲゴリラ」。と、インパクトのあるあだ名を付けられたものですが、元気でちょっとわがままなみちるの言動と、それを受け止める大人たちの愉快で、ときどきじんわり染みる家族の毎日。

この紹介は時々自分で書くこともありますが、公式等の紹介文をそのまま使うパターンが多いです。このタイトルはピッタリなにですが、一見するとなんの漫画なのか分からないかもしれませんね。それはちょっと難点?


大人の観賞に堪えうる4コマ漫画
父であり兄貴である総一、弟であり同居人のヒゲゴリラ、総一の娘であるみちる。母親に先立たれたというスタートを思うと不幸に思いがちですが、時折母親を想起させる描写あるもののあまり悲壮感はありません。みちるの明るさ、ヒゲゴリラの客観性と優しさ、総一のぼんくらな一面が物語を明るくしてます。作風が凄く優しくて、読んでいて全く嫌悪感を抱かせる描写がありません。
同じ様な系統の作品で『少女カフェ』がありますが、作風的に全く視点の異なる作品になっています。同じく母親に先立たれた親子の物語であるのに、どうしてこうも作品の印象が違うのかを考えると、少女カフェは子供っぽくないんですよね。それと比べると今作品のみちるは非常に子供らしい。総一にしても、ヒゲゴリラにしても、みちるにしても"等身大"で描かれていて「あ、こんな人いるかも!」と思わせてくれる。だから、総一がみちるを愛する気持ちや亡き妻を思う場面に感情移入できるのです。

雪が積もるように
新しい思い出が積み重なって
少しこの季節が好きになる

みちるが母親を、総一が妻を亡くした日は雪が降る日でした。総一が雪が嫌い、というエピソードは切なくもこの最後の場面で幸せな気持ちになれます。春から冬まで季節季節の大切なエピソードが描かれています。この物語はコメディとシリアスのバランスが素晴らしい。シリアスを上手くコメディに繋げ、コメディが上手くシリアスと共存しています。そういう読ませる部分は読ませ、ちゃんと漫画チックに楽しませてくれるがこの漫画の非常に上手い部分だと思います。大人の観賞に堪えうる4コマ漫画の一つだと思います。言葉選びにセンス感じるなーという部分も多いです。


大好き!ヒゲゴリラ

私が好きなのは断然ヒゲゴリラ! ヒゲが生えててゴリラに似ており、みちるの幼稚園でもヒゲゴリラ呼ばわりという悲しい存在。ヒゲゴリラの存在がこの作品のいいスパイスになっています。…どうでもいいけど、なんでみちる幼稚園なんでしょうね。保育園なら手がかからないと思うんですけど、ってそんなことはどうでもいいんですが。
ヒゲゴリラは大人でありつつ子供っぽいのが可愛らしい。アイスを巡ってみちると本気でやりあったり、嫌いだと言ったイルカショーで大はしゃぎしたり。家事全般が得意で総一にとっていい弟である部分も魅力的。喪男感がたまらんです! 保育園の先生と恋愛フラグたってるんかなーと思ったら、あんまりベースケな感じがしない喪男感も素敵。兄の妻が昔好きだったとか、掘ればドロドロした感じになりそうなんですが、それをしないものこの作品のいいところですよね。
大好きヒゲゴリラとしたものの、総一もみちるも保育園の先生もいいキャラなんですよね。みんな素直で我が侭で自分に正直で。それでいて優しい。この物語をずっと読んでいたいなぁ、と思わせてくれる魅力があります。


父とヒゲゴリラと私、とは
この物語のタイトルは『父とヒゲゴリラと私』です。私、とは誰でしょうか。それはみちるのことです。「そんなの当たり前じゃないか! 呼んでれば分かるよ!」と思われる方もいるかもしれません。でも、タイトルを眺めていて気づくことがあります。それは、みちるはお父さんと呼びます。父とは呼びません。みちるは自分のことをミチルと呼びます。私とは呼ばないことです。

その呼称から、このタイトル『父とヒゲゴリラと私』はみちるが大きくなった目線でのタイトルであることが分かります。みちるがお父さんを父と呼ぶのは一体何歳になった頃なのでしょうか。何故、この幼少期を回想しているのでしょうか。私には父が再婚する頃、もしくはみちるが結婚する頃なのではないかな、と勝手に思っています。その思い出がこの作品で語られているエピソードなのではないでしょうか。
それでも、みちるにとってお父さんが"父"と呼ぶ存在になっても、みちるが自分のことを"私"と呼ぶような年齢になったとしても変わらないことがあります。それはみちるにとって、ヒゲゴリラがヒゲゴリラであることです。ヒゲゴリラがおじさんにはならず、変わらずヒゲゴリラであること。この推測が正解か不正解か。物語にとって語られるのか、語られないのか。それは私には分かりません。でも、月日がたっても変わらない関係、それはきっと素敵なことだと思います。


久々にファミリー漫画で素敵な漫画に出会えました。私は出来る限り好きな4コマはレビューしたいと思っています。いつも以上にレビューしがいがある面白くてホッコリできる漫画に出会えたことを感謝したいと思います。この、優しくて情けない男感って大好き。こういう優しい物語は特に大人の方に読んでもらって色々感じ得てほしいと思います。あなたは、優しい大人ですか? 私も優しくなりたいもんですね。


それではまた次回。ちょっと次回の更新は間が空くかもしれませんが、宜しくどうぞ。