これぞ"4コマ新世界" 道満晴明最新作、ヘビー級4コマ『ぱら☆いぞ』

今回は『水爆さん』『ヴォイニッチ・ホテル』でお馴染みの、ポップな絵柄ながらどこか乾いた世界を描く道満晴明先生が「COMIC快楽天」で連載中の4コマ漫画『ぱら☆いぞ』を語りたいと思います。

ぱら☆いぞ1 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

ぱら☆いぞ1 (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL)

高校を舞台に複数のキャラで描かれるオムニバス4コマ。ナレーションと喋る朧先輩、こなちゃん&あかりちゃんの狂った雑談、リストカットと女性器で構成される病田さんと姉に悩む弟くん…等々、個性豊かなキャラクターの下劣で淫猥な学園生活4コマ。

この漫画に最も近い漫画は久米田康治先生の『行け!南国アイスホッケー部』(+『かってに改造』)ではないかと思います。とにかく休憩なし、時につっこみなしでフルスロットルで下ネタ(+危険なネタ)が駆け抜けます。時にベタに、時にシュールに、時に切ないネタが繰り広げられます。
掲載紙が『COMIC快楽天』であることも影響してか、ほぼ全ての4コマが下ネタで構成されています。ですが、その下ネタが「下品なだけ」に感じられないのは道満先生のポップで可愛らしい絵柄が影響しているのだと思います。その要素がありつつ、その下ネタイズムが「可愛い女の子で下らない下ネタやれば面白いでしょ?」的に感じられないのは、その下ネタも道満先生の「本気の下ネタ」だからでしょう。フェチズムに走りすぎた上に受け入れられなかったエロ漫画みたいな。…正直、この例えは間違ってる気がしなくもない。


個性を越えたキャラクター達
この漫画を構成してるのは個性豊かな「これ学園漫画に出てくるキャラクターじゃないだろ」というキャラクター達です。その面々がつっこみなしで下ネタを繰り広げるのだから恐ろしい。愛すべきキャラクターを紹介・解説するですの!!

角川と戦う宿命を持って生まれた少女・こなちゃん、最強の下ネタイズムの持ち主あかりちゃん。こなちゃんは作品内で最もまともな女の子。いきなりデブになってキャラクターアイデンティティを破壊するあかりちゃんにツッコミをいれたり、丸太でことに励もうとするあかりちゃんにツッコミをいれたり、あかりちゃんにツッコミをいれたり…忙しい子です。
そんな作品の良心も徐々に汚染されておかしくなっていくわけですが。
爪と指の間に針を入れて男性器から精子を出させたり。こなちゃんカッコいい。

「毎日がセックスとドラッグ!!」

壊れた日常の末にこなちゃんはこんな子になりましたよ。やったね。ええ、そんなこなちゃん大好きです。あかりちゃんも下手したら作品内で最強の壊れたキャラですのでカッコよろしいのです。

卒業の訓辞でやらかしてOB名簿からはずされたり。まぁ、待て。話を聞こう。誰だこいつを訓辞にしたのは…。

学生服の2人。「女子小学生のおしっこが飲みたい…」と危険ワードを平気で口にするイケメンとそれにツッコミを入れる相棒。相棒は最もまともな男性キャラクターです。この作品でこの2人のやり取りは最も癒されます。人間のクズのイケメンですが、歴史に残る名台詞を残したりもします。

僕たちはこうして大人になり年老いていくけど
幼女という存在は永遠だ。だからどんどん離されていく。
いつかその姿を見失うんじゃないか。そんな気がしてだからボクは彼女たちを追い続けるんだ。


うん、私も惚れました。でも、そんな相棒が好き。

大人っぽい処女、というか子供のリーダーとその取り巻き。リーダーがとにかく可愛いです。これだけ書くとただの萌え漫画みたいですけど、リーダーも神龍に処女喪失を願って断られたり、高校生だけどまだ初潮がきてなかったりぱら☆いぞワールドに悲しいながら染まっています。

他にもこいつらみたいな魅力的なキャラクターは沢山いるのですがとてもではないですが書ききれません。面白いのはこれらの単発ネタで出てきた個性面々なキャラクター達が交わっていくことです。個性が個性を食いつぶす素敵な世界。
例えば他の魅力的なキャラクターとしてはアイスマンさんとか呪田さんとかとか全裸部の皆さんとか。特に全裸部の2人は今後の壮絶な展開を予想させるキャラクター達です。この全裸部は春香さんの母親が伝説の女性全裸活動家のエピソードだったという話から、後輩2人の壮絶な未来を予想させる話など非常に面白いです。ただ、最初から最後まで全裸部の存在意義は不明ですけど。


道満カタルシス
「下ネタ」を中心に語ってきましたが、道満先生らしい「シリアスなカタルシス」「切ない幸せ」が含まれていることが見逃せません。道満先生の他作品からも感じられますが、道満漫画はとにかく切なくて幸せなのです。それは私が勝手に感じている部分で勘違いかもしれません。ただ、『ぱら☆いぞ』でもその要素は感じられます。

「あの葉が落ちたら私は死ぬのね…」という伝統的な状況で「あの最期の一葉が落ちたらザーメンを浴びるほど飲むの!」「×××を拡張するの!」等々、アホな妄想を吐きまくっていた弱田さん。

その死にそうにもなかった弱田さんの最期。彼女は死ぬ直前までアホな妄想を吐きまくっていました。その弱田さんが最期に言った妄想という本音。ギャグ漫画であれば必要のないカタルシス。この切なさが道満漫画の魅力です。まぁ最期の台詞の一つ前がスクール水着春場所に乱入してドルジに…」だったことはさておき。

…その台詞も一人で言っているあたり、彼女にとって妄想とは「自分の体の状況を理解しての逃避の手段」だったのではないかなどと、突飛な妄想をして勝手に一人切なくなっている私です。なんか語ってたらすげー弱田さんが好きになってきました。来世で会おう!


全裸部が廃部する際の春香の後ろ姿。どう考えてもギャグなこの光景でありながら、春香の後ろ姿には確かな"切なさ"が漂っている。かつてこんな切ない全裸の背中を書いた漫画家がいただろうか。この春香の笑顔が切なく、それに呼応する矢神が素敵です。…そうか、これがバクマンの「シリアスな笑い」か。すげぇぜ服部さん!!


このカタルシスは作品のごく一部であるものの、間違いなく『ぱら☆いぞ』を構成する一つの要素です。それがあるから道満漫画であり、この作品の中毒性に繋がっているのではないでしょうか。そんな深い作品ではないでしょうが、深読みできる魅力があると思います。ええ、間違ってる考察で大歓迎です。
従来の4コマ漫画がライト級ならこの作品は完全にヘビー級です。何が常識なのか分からなくなる重いネタをバンバン放ってきます。いつもであれば最後は「お薦めです!!」と締める私ですが、今回はこの漫画をお薦めしません。ですが、名作でも秀作でも迷作でもない「鬼作・奇作」に触れたいのであれば是非読んでみてはいかがと思います。あえて言おう、私は大好きだ!! 2011年最大の問題作でいいのではないでしょうか。
4コマ漫画は本来「軽くて、分かりやすくて、読みやすくて」という「漫才的」な日常的な作品が普遍的であるものの、こういう全編「コント的」な作品が生まれていくのは「非4コマ誌」の魅力ではないでしょうか。あくまで作者の個性があってこそ、ですが非4コマ誌の4コマというのは自由で面白いです。それでは、「非4コマ誌4コマ特集」でお会いしましょう!!

無理です。