施川ユウキが描く新たなセカイ『オンノジ / 施川ユウキ』

ちょっと間が空きましたが元気にやってます。
今回は施川ユウキさんの『オンノジ』特集ですよ。

ある日、突然、世界から人がいなくなった。人っ子ひとり、猫の子1匹いなくなった街を、ただ1人残された女の子・ミヤコが流離う。誰もいない町で、笑ったり怒ったり驚いたり赤面したりするミヤコは、やがて街に自分以外の“何か”がいることに気付く。人間なのか、それ以外の何かなのか、何も分からない“それ”を、ミヤコはオンノジと呼ぶことにした。 その後ミヤコはオンノジと接触し、その正体は人間が変化したフラミンゴだと知る。そこからミヤコとオンノジの、2人(1人と1匹)しかいない世界を巡るエピソードが描かれていく。


オンノジ
この作品は「SF傑作!」と絶賛されるような特別な作品ではありません。何故なら「何故世界が2人だけになったのか」「なぜオンノジはフラミンゴになったのか」「なぜミヤコは記憶を失ったのか」等々全く疑問は消化されないからです。「細けぇこたぁいいんだよ!」という具合に、ツッコミが発生しそうなのは全てスルー(コンビニから強奪してる場面は描かれていますが)それに加え、「気づいたら世界に自分しかいなかった。」というニュアンスからスタートする同じようなSF作品は数多くあると思います。ただ、この「ありがちな設定」を施川ユウキが書くと「施川ユウキワールド」以外の何者でもなくなるから面白い。
私はさほど「サナギさん」にハマらなかった口です。嫌いではないですけど、あの感じがどちらかというと苦手。この作品にも語り要素はありますが、一番の違いはミヤコの年齢設定が小学生だからではないでしょうか。幼い故の衝動として可愛らしく思える。素直に受け入れられる部分が大きいです。あとは世界が終末が真横にあるカタルシスと日常的ギャグのギャップがなんとも言えない味を出していて読みふけてしまう。

『オンノジ』で施川先生が初めて真面目にシリアスな作品を書いてる、と私は感じました。幼い恋愛観、死生観、人生観を詩的に描いているのは他の作品とは一線を画していると思います。子供で暴れん坊のミヤコ、どこか達観してるけど子供のオンノジ。この二人が対照的で面白いんですよねぇ。


この作品は1巻で完結します。完結するからには物語に一つの結論が導き出されます。その結論に至る経緯に細かい説明もなく、全てを「とある一言」で片づけられます。ネタバレになるので書きませんが、私はこのラストが大好きです。それまで培った悲哀、喪失感、そして得ることができた絆。それらが全て一つになるラスト。

おん‐の‐じ【御の字】
《江戸初期の遊里語から出た語。「御」の字を付けて呼ぶべきほどのもの、の意から》

1 非常に結構なこと。望んだことがかなって十分満足できること。「出費がこの程度で済めば―だ」

2 最上のもの。

点と線が繋がったとき「御の字(オンノジ)の意味」を考えさせられます。ミヤコは冒頭で街で見た謎の人影を「わからないけど きっとありがたいものだろう」と、オンノジと呼びます。はっきりとした説明はありませんが、おそらくは「なんだかわからない存在」だから、漢字ではなくカタカナで漠然と「オンノジ」なのでしょう。
ミヤコは記憶を失っているため「フラミンゴ」を忘れています。子供だから、鳥と認識しつつも、鳥ではなく「オンノジ」という存在と認識しています。鳥でありフラミンゴであるオンノジを、「良い人」とあっさり受け入れます。記憶を取り戻しフラミンゴを把握したあとも自分たちを「2人」と呼び、オンノジを鳥とは思ってないことがわかります。それは作品において重要でないようで、重要なことです。
このモノローグが流れ物語は終焉へと向かいます。

どうしよう
どうしよう
どうしよう
私は今
こんなにも
オンノジに
会いたい!!

Scene45『世界の終わり』からLast Scene『御の字』に至る時、4コマ完結のギャグ4コマからストーリー4コマに変質したとき、この物語は形を変えます。「オンノジ」と「御の字」について改めて読者は二つの単語を認識します。うだうだ言いましたが、タイトル、ラスト、この二つの要素が名作だと思わせる要因です。
ちなみに、サブタイトル「世界の終わり」は二回あります。一回目は世界の終わりを考えるオンノジ。

だからもし世界がこのまま終わってしまったたとしても
ハッピーエンドだ

そう考えるオンノジにミヤコは一つの回答をします。「きっと一人じゃないからだよ。世界の終わりも同じかもしれない。」ミヤコはこの解を導いていました。そして二回目は「世界の終わり」に直面する場面でサブタイトルとして起用されています。その解を導いているミヤコが世界の終わりに挑む、そう考えると面白い。


私はこの作品リアルタイムで読んでなかったのですが、逆にリアルタイムで読んでないで良かったなぁ、と。通して読めて良かった。通して読むと読まないだと印象違うんでないかなーと。こんなに心に残る作品になるとは思いませんでした。お勧めですっ!!

同作者の「バーナード嬢曰く。」にあやかるであれば「心の底からお薦めしたい一冊よ!!」からの「マイナー系雑誌で連載されてて、しかも4コマ、サブカル要素の強い作者で作風にSFチックが含まれてるとなれば、好きと言っておけば通ぶれる!!」ですよ。なんて風に書くと凄い計算チック!!

今回、『オンノジ』『バーナード嬢曰く。』『鬱ごはん』が3冊同時に発売になっています。どの作品も全く作品の方向性がかぶってないのが凄まじい。オンノジはファンタジー4コマ、バーナード嬢はアホショート漫画、鬱ごはんはジャンク漫画。一番面白いのはオンノジ、一番楽しいのはバーナード嬢、一番くだらないのは鬱ごはんってところでしょうか。
でも、一番共感できるのは鬱ごはん。絵が下手なのは周知のとおりですが鬱ごはんが成年の独白が大半を占めてるせいか妙に片山まさゆきっぽいです。づがーん。